私は無知なんです。

知ったこと思うことを淡々と綴ります。



僕が未婚の父になった理由

僕は20代半ばのころ、同棲していた彼女がいました。

 

付き合い始めて間もなく一緒に住んでいましたが、3年くらい経った時にはすでに関係は冷めはじめていました。彼女は夜にアパレルの仕事をしていると言って、夜な夜な出かけていました。今思えば夜中にアパレルの仕事なんておかしいですよね。実際色んな男性と遊んでいたみたいです。

 

朝方帰ってきて、僕が夜に仕事から帰るとすでにまた出かけているというすれ違いの生活でした。別れなかったのは彼女が行くところも引っ越すお金もないという理由で、ずるずるとそんな生活を続けていたのです。

 

そんなころ彼女の妊娠が発覚しました。

いくら冷めきった関係とはいえ、子供ができたとなったら話は別です。すでに中絶できる期間ではなかったですし(できたとしても実行したかはわかりませんが)、今後のことについて話し合いました。ところが彼女に結婚はできないと言われたのです。

 

なんと彼女はすでに既婚者でした。僕と付き合う2年くらい前にすでに夫とは別れていましたが、夫は行方不明な上、籍はそのままとのことだったのです。

 

これには流石に僕もショックでしたし、その時は彼女を批判しました。

でも本音ではほっとしていた部分もあったんです。

自己中心的な自分は、猛烈に子供嫌いなのに加え、冷めた彼女との結婚願望など全くありませんでした。このまま子供が生まれても、自分の子にはならないという責任逃れな打算的考えです。こんな無責任で自己中な当時の自分を今考えると、彼女との関係が冷めるのも当然だったのかもしれません。

 

僕は両親に報告することもできませんでした。また彼女は両親とは縁を切った状態で、連絡先すら分からないとのこと。

結局ずるずると時は経っていき、誰からも祝福されないまま我が子が誕生しました。

 

僕が初めて娘を見たのは、退院時でした。迎えのタクシーの中で初めて見た我が子は想像していたよりはるかにかよわくて、同じ人間とは思えないほどでした。ただ僕の差し出した小指を握りしめたその弱々しい力に、確実な命を感じたことだけははっきり覚えています。

 

それからしばらくの間だけは、普通の家族というものを味わいました。僕もパパとして育児に参加していましたし、母親の彼女も母性があるようでしっかり育児をしてくれていたんです。赤ちゃんが笑ったりするだけで全員が幸せになるような本当にごく普通の「ありふれた家族」というものをほんの少しだけ体験することができました。生まれるまで子供大嫌いだった僕も子供にメロメロになってました。

 

半年から1年くらいたった頃でしょうか。彼女がまた夜に出かけるようになりました。深夜過ぎには戻るので僕が娘を見ていればいいとガマンしていました。そのうちにだんだんと彼女が育児をしなくなっていきます。

 

娘が1歳半くらいになって少しずつ意思表示 をし始めると、彼女は自分に反抗するのが許せないみたいで娘にきつくあたるようになってきました。

その頃はなるべく定時で帰るようにしていたんですが、帰るとおむつがぱんぱんで、長時間放置したためにお尻が真っ赤にかぶれてることも増えてきました。

どうしても残業しなくてはならない日にそれを伝える電話をすると、彼女は自分が出掛けられないためにご機嫌ななめでした。

 

彼女の帰る時間もだんだん遅くなってきます。朝方まで帰ってこないのは当たり前で、時には次の日の昼まで帰って来ない日もありました。僕は職場に子供がいることを伝えてないので当然休むことになります。

救いなのは虐待っぽい虐待がなかったことと、底抜けに娘が明るかったことでしょうか。とにかく赤ちゃんのときからよく笑う子で、ケタケタケターっとご近所中に聞こえるくらいの大きな笑い声でいつも笑ってました。

 

このままではヤバイとようやく思い始める僕。別れることを真剣に考えました。とはいえ別れるとなると、戸籍上の父親ではない僕は娘ともお別れとなるでしょう。養育費などを払う必要もなく、バツイチにすらならず悠々自適な独身生活に戻れます。

でもすでにこの頃には僕にとって娘はかけがえのないものになっていました。

 

ある晩、怖い夢でも見たのか娘が突然夜中に起きて大泣きしました。

おもちゃやぬいぐるみであやしても全く泣き止みません。

抱っこして、抱きしめた体勢のまま仰向けになり布団にはいると、僕にしがみついたまま泣きながら寝付きました。

ちょっとしてまたビクッとして起きて、泣きかけたところで僕の顔を見て、「パパ…」と言ってまたしがみついて安心したように寝たんです。

この瞬間、「こいつにはもうオレしかいないんだ」と真っ暗な二人っきりの部屋で娘を抱きしめながらそう思いました。僕が見放したら、母親は育てる気がないから確実に児童養護施設行きになるだろう。大好きなママもパパもいなくなったらこのあほみたいによく笑う子も笑えなくなるかもしれない。想像するとちょっと耐えられなかった。

残りの人生この子のためだけに生きようとこの時誓いました。

 

その後僕の両親に実は子供がいることを話しました。怒りと驚きの反応はすごかったですが、なんとか理解してくれ協力してくれています。感謝しきれません。

娘の母親には彼氏がいました。僕にも娘にも愛情がないのに別れなかったのはお金のためだけでした。娘の親権と養育権を僕に渡す協力をすることとの引き換えに50万円ほどの引っ越し資金などを渡して別れました。

 

子供には離婚したんだよって言っています。気を使っているのか娘からママについて聞かれたことはほとんどありません。覚えているのかも分かりませんが、どんなであろうとママのことは大好きだったでしょうから、悪口めいたことは絶対言わないようにしています。

将来詳しく聞かれることがあっても、いいところを思い出して言うかなぁと思います。僕自身も恨んだりムカついたりという気持ちもないですしね。

 

これが僕が未婚の父になった理由です。

今のところ娘はケタケタよく笑う明るい子です。